大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(行ク)21号 決定

申立人 全日本教職員組合

右代表者中央執行委員長 三上満

右申立人代理人弁護士 田原俊雄

同 白川博清

同 船尾徹

同 牛久保秀樹

同 原希世巳

同 長澤彰

同 小部正治

同 佃俊彦

同 藏本怜子

同 須合勝博

同 藤本齊

同 高木一彦

相手方 三鷹市長安田養次郎

相手方代理人弁護士 堀家嘉郎

主文

一  相手方が平成三年七月九日付けで申立人に対してした三鷹市公会堂ホール及び別館会議室の使用承認の取消処分の効力を本案判決が確定するまで停止する。

二  申立費用は相手方の負担とする。

理由

一  本件取消処分に至る経過等

本件疎明資料によれば、次の事実が認められる。

1  申立人は、都道府県教職員組合等により組織される教職員組合の連合体である。

2  申立人は、平成三年六月一日、相手方に対し、第二回定期大会(以下、「本件大会」という。)を開催するため、三鷹市公会堂ホール及び別館第七ないし第一〇号会議室(以下、「本件公会堂」という。)について、同年七月二三日から同二五日までの三日間の各午前九時から午後九時まで(会議室については、各午後九時三〇分まで)の使用承認の申請をし、相手方は、同年六月一日、申立人に対し、右使用の承認(以下、「本件承認」という。)をした。

3  本件大会には全国から約五〇〇名の代議員等が参加し、申立人の今後一年間の活動方針等について討議することが予定されている。申立人は、平成三年六月一九日に参加者に対し開催通知を発送し、宿泊先を確保する等の開催準備を済ませている。

4  これまで、申立人等の教職員組合の集会に対しては、右翼団体等が多数の街頭宣伝車を集合させて妨害活動を行い、会場周辺の市民生活に混乱等を生じさせる例がみられた。本件大会についても、右翼団体等は、本件承認後、相手方に対し、電話による抗議を行い、あるいは街頭宣伝車を連ねて来庁する等の抗議活動を開始し、更に本件大会の開催阻止行動を展開する旨通告してきている。

5  このように右翼団体等による妨害活動が予想されるため、本件大会の開催者である申立人は、三鷹警察署及び警視庁との間で、平成三年六月二八日から七月上旬にかけて数回にわたり本件公会堂周辺の警備について協議を行っている。この間、申立人は、同月一日に三鷹警察署に対し警備要請書を提出し、翌二日には、申立人と三鷹警察署との間で、会場の警備態勢、周辺道路の交通規制方法等について具体的な確認と協議がなされた。

6  相手方は、本件承認に対する右翼団体等の抗議活動が始められると、申立人に対し、本件使用承認申請の取下げを要請し、平成三年七月九日、「市民の平穏な生活が妨害され、交通が阻害されるなど公益を害し、かつ、市公会堂の管理上支障があると認められる」ことを理由として、本件承認を取り消す旨の処分(以下、「本件取消処分」という。)をした。

二  本案訴訟の適法性について

相手方は、申立人が提起した本案訴訟は、市町村長がした公の施設を利用する権利に関する処分の取消訴訟について不服申立前置を要求している地方自治法二四四条の四第一項、二五六条の規定に違反しており、不適法であると主張する。

しかし、前記認定のような事実からすれば、本件本案訴訟については、行政事件訴訟法八条二項二号に規定する「処分により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する事由があるものと認められるから、その適法性に欠けるところはないものと考えられる。

三  効力停止の緊急の必要性について

右に認定したような本件大会の日程、参加予定者数、開催準備状況等からすると、現時点で、申立人において本件大会の開催予定日までに他に代替会場を確保して開催場所を変更したりすることは、事実上不可能なものと考えられる。また、本件大会の中止等による不利益は、その性質上金銭的補償によって事後にこれを回復することも困難なものと解される。

そうすると、本件取消処分については、これにより生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるものというべきである。

四  公共の福祉に対する影響について

相手方は、本件大会の開催に伴い、右翼団体等の妨害活動により本件公会堂周辺の住民生活への被害、近隣施設の運営の混乱等を生ずる蓋然性が高いので、本件取消処分の効力の停止をすることは公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると主張する。

しかし、公会堂等の施設を使用して開催される集会等を阻止しようとする団体等が右施設外で行う違法または不当な妨害活動等によって、周辺の住民の生活の平穏が害され、近隣施設の運営等に混乱、支障等を生じるおそれがあるとしても、これらの事態については、施設内の集会行為そのものに起因するものでないから、本来施設利用者がその責めを負うべき性質のものではなく、むしろ警察当局の適切な措置によってその回避が図られるべきものと考えられるところである。また、前記認定の事実によれば、本件大会の開催に対する右翼団体等の妨害行為については、すでに警察当局の手により、予想される妨害行為に対する具体的な警備対策が検討されており、周辺の住民生活に対する被害や近隣施設の運営の混乱等を最小限に抑止するための方策を講ずる準備が進められていることが認められる。

そうすると、本件取消処分の執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるということは困難なものというべきである。

五  本案の理由について

相手方は、三鷹市内に住所を有しないため本来本件公会堂の使用権をもつ者でない申立人に対してなされた本件取消処分は、三鷹市公会堂条例四条に定められた使用の不承認事由を準用又は類推適用して行ったものであり、適法なものであるから、本件申立は、本案について理由がないとみえるときに当たると主張する。

しかし、三鷹市公会堂条例一〇条及び同条例施行規則八条によれば、一たん行った公会堂の使用承認を取り消す場合については、その取消事由が限定列挙されていることからして、相手方の主張するように右条例四条の規定の準用又は類推適用によって本件取消処分を行うことが許されるかについては問題があり得るところである。また、仮に右のような類推適用が許されるとしても、一たん行った公会堂の使用承認を、本件の場合のように申立人の責めに帰すことのできないような公益上の影響又は管理上の支障を理由として取り消す(撤回する)ことの適否については、右の使用承認が三鷹市の住民でない申立人に対してなされたものである場合においても、なお事柄の性質上慎重な判断が要求されるところといわざるを得ない。

そうすると、本件取消処分の取消しを求める本案について、これが理由がないとみえるときに該当するということも困難である。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 小池裕 近田正晴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例